雨の日が苦手だった、私たちは

「高瀬さんのお見合いの話ですよっ! 安藤さんなら知ってそうなのに……。ねぇ、朝比奈さん、最近高瀬さんとランチしてるんでしょう? 何も聞いてないの?」
「おみ、あい……ですか……?」


 すっと、フォークを持っていた指先から熱が抜けていく。
 落とす前に、きゅっと力を込めた。

 目の前では三人が「えぇ〜っ! それ本当なの!?」と驚きの声を出している。三人とも、その話は初耳らしい。萌衣だって初耳だ。
 そんな話、本人からも聞いていない。


「朝比奈さん、知らなかったの?」
「はい。私も、初めて聞きました」
「なるほどね〜。じゃあ、まだ知らない人も多いってことか。もう、彼女がいるって噂が出たばっかりなのに! 噂が出たからお見合いの話で揉み消そうとしてるのかな〜。私だって高瀬さんのこと狙ってたのに〜」
「え、西さんが諦めるような相手なの?」


 話を聞いていた安藤が、西にふと疑問を投げかける。
 前回の歓迎会でも、高瀬に自身の腕を絡めていたのを安藤は知っている。西は開き直ったように、「だって〜」と言った。

 
「お見合い相手、誰だと思います? うちの社長の娘さんですって! こんなの、次期社長候補って言われているようなものじゃないですか〜」
「えぇ、そんなにすごい相手だったんだ」
「ですです! あの合理主義な高瀬さんだったら、この話受けそうじゃないですか? だって、デメリットがないですもん」
「へぇー、西さんって意外とちゃんと高瀬くんのこと理解してるんだ」


 安藤はまるで「見直した」とでも言うように、西を見上げている。
 西は萌衣たちから何も情報を得られないと分かったのか、萌衣の方をちらと見て「あ〜もう、イライラするな〜っ」と呟きながら去っていった。

 その後ろ姿を見て、柳がぽつりと「嵐みたいでしたね」と言った。


「……それにしても、高瀬くんのお見合い話は初めて聞いたわね。ここ二、三日の間に出てきた話なのかしら。朝比奈ちゃん、本当に何も聞いてない? 西さんの手前、何も聞いていないって答えたとか」
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