雨の日が苦手だった、私たちは

「はい、分かりました」
「あー……悪い、こっちの処理を先にお願いしても良い? これ五時までだった。無理そうなら俺がやるけど……」
「大丈夫ですよ、対応します」


 高瀬から割り振られた仕事を、黙々とこなしていく。少し気を抜くと、お昼の西の言葉が頭をよぎった。


『あの〜みなさん、あの噂って聞きましたか? 高瀬さんのお見合いの話ですよっ!』


「——朝比奈、どうした?」
「え……?」
「突然指が止まって、ぼうっとしているように見えたから」
「あ、すみません。ぼうっとしてしまって、集中します」
「いや、別に悪いとは言ってなくて。……何か、資料に不備でもあったか?」


 高瀬の問いに、萌衣は「いえっ、不備はないです!」と首をふる。仕事に集中しなければと、自分に言い聞かせた。

 一度気分を変えようと、萌衣は給湯室に向かった。自分と高瀬の分のコップを用意して、ドリップコーヒーを淹れた。

 執務室に戻り、高瀬に差し出すと「お、悪い。サンキュ」と言ってコーヒーを飲み始めた。萌衣も同じように、コップに口をつける。


(あの噂、本当なのかな……でも、西さんの言葉も本当か分からないし……今は集中して、目の前の仕事を終わらせなきゃ)


 噂に対する疑問も、よく分からない“もやもや”も、萌衣はコーヒーと一緒に無理やり飲み込んだ。

 仕事を再開して、高瀬に「五時までにほしい」と言われていた資料をメールで送る。メールにすぐ気づいた高瀬が「ん、ありがとな」と言った。

 『間に合って良かった』と胸を撫で下ろしていると、高瀬の動きがピタリと止まった。


「……ここ、間違ってるな」
「え?」
「あとー……ここの数字も、間違ってる」
「えっ……本当ですか!? すみません、すぐ直し……」
「いや、いい。俺がやる。珍しいな、朝比奈がミスするなんて」
「……申し訳ございません」


 今までほとんどミスがなかったから、こういう指摘を受けるのも初めてだ。
 心の中で、しゅんと何かが萎んでいく。

 高瀬はカタカタとキーボードを打ちながら、ちらと壁掛けの時計に視線を向けた。
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