雨の日が苦手だった、私たちは

「高瀬さんも、用事があるんですね。今日はお互い、早く上がりましょう」
「……あぁ、そうだな。朝比奈はもう上がれるか?」
「はい。……それじゃあ、お先に失礼します」


 急いでバッグを手に取り、萌衣は歩き出した。
 エレベーターに乗り、ふうと大きく息を吐き出す。やっと、息ができたような気がした。

 エレベーターの中で居合わせた社員二人の会話が、萌衣にさらに追い討ちをかけた。


「なぁ、あの噂聞いたか?」
「何? あー高瀬さんのお見合いの件?」
「そうそう、社長の娘だってな。凄いよな〜最年少課長も、もうすぐだろうな」
「あぁ、課長というより、次期社長候補なんじゃないか?」
「凄いよな〜仕事が出来て見た目も良くて、何も欠点が無いよな」


 エレベーターが開き、二人は談笑しながら出ていく。
 いつもだったら「自分の目で見たものを信じたい」と思う萌衣も、体調が悪いせいか、周りの言葉に強い影響を受けていた。

 その二人に続いて、萌衣もエレベーターを降りる。
 足元がわずかにふらついた。ゆっくり歩きながら、また高瀬のことを考えてしまう。


(……もしお見合いが本当なら、やっぱり高瀬さんとの距離の取り方は気をつけないと。あとー……)


 自分が気を付けるべきことを、取り留めもなく並べていく。そして、また大きく息を吐いた。


(……この気持ちに、名前をつける前で良かった)


 ずしりと、重たいものが落ちた気がした。

 でも、これがもし『名前をつけた後』だったら、萌衣はどんな気持ちになってしまったのか分からない。
 高瀬と顔を合わせたくなくて、急いでオフィスを後にした——。


***
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