雨の日が苦手だった、私たちは

side高瀬陽

 温かいお茶を口に含み、小さく息をつく。
 目の前に座る東雲社長は、にこにこと温和な表情を浮かべてこちらを見ていた。

 一見、大手専門商社の社長とは思えない。
 それでもこの表情の裏では、数々の実績を積み上げてきた人なのだ。

 どこか、自分と通じるものがある気がした。
 平社員の自分と比べるなんて、烏滸がましいとは思うけれど。


「高瀬くん、ここの料理はどうだい? 新潟、上越の味を売りにしているんだが」
「はい、とても美味しいです」
「高瀬くんがお酒を飲めれば、日本酒も良いのがあるんだけどねぇ。あぁ、私は飲めない人間に無理に飲ませる趣味はないからな、安心してくれ」
「ありがとうございます」
「えっ、高瀬さん、お酒が飲めないんですね! では、こちらのノンアルコールメニューから、追加で何か頼みますか?」


 社長の隣に座るのは、娘の東雲サエだ。
 年は26、朝比奈と同い年。

 東雲が娘のサエを溺愛しているという噂は聞いていたが、意外にも厳しい面もあり、今は関連会社に出向という形で働かせているらしい。

 関連会社での働きぶりも評価されているらしく、近々本社に戻ってくるそうだ。
 頭のきれる二人を前に、あまり気を抜けない。


「ありがとうございます。お茶で結構ですので」
「よろしいのですか?」
「はい。このお造りも味わいたいですし、お茶で十分です」
「そうですか、分かりました」


 サエはすっと身を引き、それ以上何かを押しつけることもなく食事に戻った。
 高瀬が刺身に箸を伸ばしたタイミングで、東雲が本題を切り出した。


「高瀬くん、うちの娘はどうかね?」
「どう……と、言いますと?」
「はは、高瀬くんは慎重だな。まぁ良ければ、お見合いの場を設けるのはどうかと」
「お見合い、ですか」
「あぁ、今日は仕事の延長のようなものだからな。お見合いは改めてということで。今日は、顔合わせ程度の気楽なものだと思ってくれれば良い」
< 67 / 134 >

この作品をシェア

pagetop