雨の日が苦手だった、私たちは
 東雲の話に耳を傾けながら、ふと自分の言葉が頭をよぎる。


『サエさんは……好きな人と結婚なさらなくて良いのですか?』


 結局、どうしてあんな質問をしてしまったのか自分でも分からないまま、あっという間に食事会はお開きになった。

 店を出て、二人をタクシーに乗せてから、自分一人だけ歩いて駅まで向かう。
 タクシーを捕まえても良かったが、今は夜風に当たりながら一人になりたい気分だった。
 

(それにしても……お見合いの話はさっき聞かされたっていうのに、なんで社内ではもう噂が回っていたんだ? 社長かサエさんから聞いた誰かが、先走って広めたのか)


 コツ、コツと乾いた靴の音が聞こえる。周りには誰もおらず、静まり返っていた。
 夜風がふわっと頬を撫でる。酔っているわけでもないのに、風が妙に心地よかった。

 歩きながら、『最後に食べた柚子風味の酒粕シャーベットが美味しかったな』と思い出す。

 さらに思考を彷徨わせていると、オフィスでの出来事が頭をよぎった。


(朝比奈、様子がおかしかったな……)


 カタカタとキーボードを打っていると思ったら、突然動きが止まり、ほんの少しの間ぼうっとしていた。

 それだけでも珍しいというのに、その後細かいミスを連発していた。明らかに、いつもと様子が違う。
 ふと時計を見上げると、終業まで1時間半を切っていた。

 
「朝比奈、今日はもう帰っていいぞ」


 良かれと思って、言った言葉だった。
 体調が悪いのなら、良い時に挽回すれば良い。そのまま仕事をしても、効率が悪い。

 でも、朝比奈の反応は予想とは全く違うものが返ってきた。

 
「え……」


 戸惑い、言葉を失っている。気を遣ったはずが、朝比奈は違う受け止め方をしたらしい。「帰りません」と言われた時は、どうしたものかと思った。

 でも、彼女は意外と頑固な所がある。「これ」と決めたら曲げない芯の強さのようなものがある。

 もし「帰れ」と言っても、「帰りません」というやりとりを延々繰り返すような気がした。


「良いけど……この後も結構タスクあるけど、本当に大丈夫か?」
「はい、もちろんです」
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