雨の日が苦手だった、私たちは
『絶対そうだよ〜。お姉ちゃんはもっと、自分中心に世界を回すくらいで良いんだよ!』
「えぇ、それは流石に言い過ぎじゃない?」
ふふ、と笑みが溢れる。電話越しの杏奈は「もう、本気で言ってるのにー!」と不満げな様子だ。
予兆があったか、なかったかで言えば……あったかもしれない。
今回の体調不良と、以前高瀬の前でふらついたことが関係しているかは分からないけれど……。
でも、この時、萌衣は高瀬から言われた言葉を思い出していた。
『朝比奈、今日はもう帰っていいぞ』
その言葉を聞いた時、萌衣は「突き放された」と思った。
でも、もし、高瀬が萌衣の体調不良に気づいていたのだとしたら——?
『お姉ちゃんはさ、自分がどうしたいか、から考える癖をつけた方が良いよ』
「え? どういうこと?」
『うーん、本当は体調が悪いお姉ちゃんと長電話するのも、気が引けるんだけど……。なるべく手短にするからね。
もしさ、誰かと結婚したらさ、何でもかんでも相手優先にしてたら潰れちゃうと思うんだよね』
「うん、そうだよね」
『お姉ちゃんはそんな風にならないって思ってるかもしれないけど、今まで利用されなかったのが不思議なくらいだよ。お姉ちゃんの優しさに付け込む人なんて、絶対いると思うから』
その言葉に、一瞬どきりと胸の奥が揺れる。
今まで、周りの人には恵まれていたと思う。嫌な思いをしたことはない。でも、それはただ、自分の気持ちに鈍感なだけだったとしたら――。
そう思うと、途端に自信がなくなっていく。初めて感じる不安だった。
そして、杏奈のおしゃべりは続いた。
周りでは結婚したばかりの友人が多いらしく、なかには子育てが始まって、夫婦関係に変化があったという人も多いらしい。
夫婦二人の時は、夫のためになんでもやっていたという友人も、子供が生まれた途端、それはできなくなったと。
『だってさ、“大きい子供”のお世話までしてられないでしょー!? 目の前の赤ちゃんのお世話で、手一杯なのに』
「ふふ、うん。それはそうだよね」
独身の萌衣には少し遠い話に聞こえるけれど、そこは黙って杏奈の言葉に耳を傾けた。