雨の日が苦手だった、私たちは
『まぁ、ここまでは例え話だったんだけどさ。とにかく、自分の気持ちを無視したら、大事なものを見落としちゃうかもしれないから。私はさ、お姉ちゃんには幸せになってほしいんだよ』
「杏奈……」
『私がいて、お姉ちゃんは色々と我慢してきたことも多かったと思うんだよ。長女だからしっかりしなきゃって。私も結婚するわけだし、これからは自分がどうしたいかをもっと大事にしてね』
「……ありがとう」
杏奈は目の前にいないのに、萌衣は自然とスマホ越しに頷いてしまう。妹の優しさをしっかりと噛み締めていた。
こんな風に優しくされると、自分には何が返せるんだろうと考えてしまう。
でも、今日だけは。
体調を崩した今日だけは、自分の眠気を優先させることにした。
「……杏奈、ごめん、そろそろ寝るね」
『うん……っ! ごめん、私も長々話しちゃって。ちゃんと休んでね? 何かあったら、いつでも電話して。すぐに行くから』
「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくね」
通話を切ると、急に体の力が抜けていった。
少し寒気がして、すぐそばの布団を被った。
(今までだったら、解熱剤を飲んで次の日も仕事をしていたけど……。杏奈の言うとおり、もう少しゆっくり休もう。風邪だったら、高瀬さんとか他の人にも移したくないし)
最後の力を振り絞って、スマホを持ち上げる。
意識が曖昧になってきて、そろそろ瞼が落ちてしまいそうだった。
(……明日の朝起きて、まだ熱がありそうであれば、高瀬さんと田中課長に休みの連絡を入れよう。もう夜だし、それからでも遅くない……)
持ち上げたスマホを再び下ろし、萌衣はそのまま深い眠りへと落ちていった——。
***
翌朝、萌衣はいつもより早く目が覚めた。
カーテンの隙間から、柔らかな光が差し込んでいる。外は静かで、人々が動き出している気配はない。時計を見ると、まだ朝の5時だった。
起き上がって体温を測ってみたけれど、平熱より少し高いままだった。