雨の日が苦手だった、私たちは
もし「気にするな」とか「大したことじゃない」と言われれば、萌衣は「仕事で挽回しなきゃ」と思っただろう。
でも、高瀬は、萌衣がそう思うことを見越して、「業務効率のために先回りしただけで、結果的には自分のため」と言ったのだ。
高瀬の不器用な優しさに触れるたびに、萌衣の胸が温かくなる。
気持ちに蓋をしたというのに、こうも想いが日々積み重なってしまうとは……。
これと向き合い続けるのは、なかなか大変だなと萌衣は思った。
「あ、朝比奈、早速だけど、これお願いして良い?」
「はい、すぐやりますね」
高瀬から伝票を受け取り、目の前の画面に打ち込んでいく。
急いで入力を終えて報告すると、彼は「あ、あと」と何かを思い出したように呟いた。
「病み上がりに言うことじゃないかもしれないけど……来週、出張が入りそうなんだ」
「そうなんですね、どちらに行かれるんですか?」
「金沢。行ったことあるか? あぁ、行ったことないって言ってたな」
「……はい。覚えててくださったんですね」
高瀬は、ブックカフェでの会話を思い出したのだろう。萌衣は事前に準備する資料を聞いておこうと、自然とメモ帳に手を伸ばす。
すると、高瀬が思いもよらぬことを言い出した。
「今回の出張、朝比奈にも同行してもらいたいんだ」
「……えぇっ、私もですか?」
「あぁ、長期契約はほぼ固まってるんだが、最終調整が当日発生しそうなんだ。
過去の取引データも、一番把握してるのは朝比奈だろう。その場で即答できる人間がいる方が、先方も安心する」
「私でお役に立てるなら……」
あの合理主義の高瀬だ、以前だったら自分一人でこなしていただろう。データを把握している量も、高瀬の方が多いはずなのだから。
でも、今回は萌衣を頼ってくれている。
高瀬の変化に驚きつつも、萌衣はこくりと頷いた。
高瀬が昼食を抜いていた頃と比べると――それはとても大きな変化に思えた。
「よし、決まりだな。朝比奈が泊まりたいって言ってた宿に行くのは難しいだろうけど……少しくらい観光はできるだろう」