雨の日が苦手だった、私たちは

「仕事で行くので、温泉旅館に泊まるなんてとんでもないです。屋根があれば十分ですよ」
「なんだ、欲がないな。とにかく、ちゃんと契約を決めて、美味しいものでも食べよう」
「高瀬さんが食べたいのは……金沢の和菓子ですか? それとも、金箔が乗ったソフトクリーム?」


 冗談まじりに伝えると、高瀬は虚をつかれたような顔をしてから、ふっと笑みを浮かべた。美味しいものイコール、甘いものとは考えていなかったのかもしれない。


「そうだな。どっちも、かな」
「ふふ、高瀬さん、意外と欲張りですね」


 くすくすと小さく笑うと、高瀬は「ま、そのためにもちゃんと契約を取らないとな」と呟いた。


***


 出張当日。
 萌衣は新幹線乗り場に早めに行こうと、慌ただしく身支度をしていた。テレビから流れてくる朝のニュースに、ふと手を止める。


『——梅雨前線の影響で、北陸地方では激しい雨が続いています』
「……え、金沢は雨なんだ」


 テレビに視線を向けるも、すでに天気予報は終わり、明るいBGMとともに別の話題へと切り替わっていた。


「でも、きっと大丈夫……だよね?」


 準備を終えた萌衣は、いつも使っている折り畳み傘を鞄に入れた。そして、自宅の扉を開ける。
 見上げた先には、雲ひとつない空が広がっていた。東京は快晴だった。


「激しい雨なんて、嘘みたい。向こうでタクシーも予約してるし、きっと大丈夫」


 慣れない出張で、緊張しているのかもしれない。自分に言い聞かせるように、二度目の『大丈夫』を呟いていた。

 その後は電車を乗り継ぎ、東京駅に辿り着いた。ここからは、高瀬と一緒に移動する予定だ。

 待ち合わせ場所に少し早めに着いた萌衣は、高瀬の姿を探す。


「朝比奈!」


 スーツ姿の高瀬が、こちらに手を振りながら近づいてきた。


「高瀬さん、おはようございます」
「おはよう。金沢、結構雨が酷そうだな」
「はい、一応傘は持ってきたんですけど……梅雨前線に折り畳み傘じゃ意味ないでしょうか」
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