雨の日が苦手だった、私たちは
「いや、移動は基本タクシーだから大丈夫だろう」
「……そうですよね。では、早速行きましょうか?」
東京駅発、金沢駅着の北陸新幹線に乗り込む。
二人並んで座り、今日のスケジュールや打ち合わせ内容を確認した。
確認もすぐに終わり、『高瀬さんは次に何をするのだろう』と様子を伺う。すると、彼は静かに目を閉じた。
驚いた萌衣は、つい二度見してしまう。
「……どうした?」
「あ、いえ……高瀬さんも、寝るんだなと思いまして」
「やることはやったし、これ以上何もすることがないからな。そんなに意外か?」
「はい……絶対、仕事すると思いました」
「この後が本番だ。朝比奈も今はゆっくり過ごせばいい」
そう言って、高瀬は再び目を閉じた。
こんなにも隙のない人が、無防備に目を閉じているなんて——。
仕事中からは想像できない姿に、胸の奥がそわそわしてきた。
「朝比奈」
「はい」
「到着したら起こしてくれ」
「はい……」
目を閉じたまま、高瀬は安心したように眠りについた。
信頼してくれていると思うと、胸が温かくなる。
けれど同時に思い出すのは、お見合い相手の存在だ。自分を戒めるように、心の中で言い聞かせた。
(高瀬さんは縁談の話が進んでるんだから、喜んじゃだめ……でも、)
今だけは。
ほんの少し心を委ねて、萌衣もそのまま目を閉じた——。
「……朝比奈、朝比奈」
「……はい」
「もうすぐ着くぞ」
高瀬の呼びかけに、意識がゆっくり浮上する。
そして、高瀬の肩にもたれかかるようにして寝ていたことに気づいた。
「す、すみません! 私が起こす予定だったのに、高瀬さんに起こしてもらって、しかも寄りかかって眠っていたなんて……」
「いや、気にしなくて良い。たまたま俺の方が先に起きただけだ」
そう言って笑う高瀬は、やっぱり太陽のようだった。
まだ見ぬお見合い相手を思い出して沈んだ気持ちも、ふわりと持ち上げられたような気がした。