雨の日が苦手だった、私たちは
 なんとか雨を避けながら、萌衣たちはタクシーに乗り込んだ。目的地である産業機器メーカーに辿り着き、急いで建物の中に駆け込んだ。


「無事に着いたな……ここからが本番だ」
「はい……! よろしくお願いします!」


 悪天候に見舞われたものの、なんとか無事にここまで辿り着くことができた。事前にちゃんとタクシーを手配しておいて正解だった。
 あとは、商談をやり切るだけだ。

 それでもなんとなく、引っかかるものがあった。
 目の前で地面を叩きつけるように降る雨が、萌衣を不安にさせていたのかもしれない——。





「……どういうことでしょうか?」

 
 しんとした会議室で、高瀬の声だけが響いた。

 契約条件もほぼまとまり、これで終わりかと思えた時だった。北陸テクニカルの工場責任者であり、社長の息子でもある森川リョウは慌てたように手を振った。


「あ、いえ、契約をやめたいとかそういう意図はなくて、ただ少しだけ気になっていると言いますか……」


 北陸テクニカルに納品している精密シャフトのデータを、高瀬は手元で確認していく。


「……数値は、基準通りですね」
「ですよね……。それは、分かっています。でも、実際に回すと機械が少し震えるんです」
「なるほど、でも基準通りに作っていますし……その振動の原因がシャフトなのか、断定できませんよね」
「そう、ですね。すみません。どれが原因かは特定できていませんし、ほんの少し気になっただけですので……」


 会議室が、しんと静まる。
 黙ってその場を見守っていた萌衣は、どうすれば皆が納得するか、気持ち良く仕事ができるかを頭の中で巡らせた。

 目の前に座る森川が諦めたように視線を伏せた時、萌衣は思わず声を出していた。


「あの、実際に、工場を見せていただけませんか?」
「え?」
「……朝比奈?」
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