雨の日が苦手だった、私たちは
 結局、高瀬は断ることなく、森川に「ぜひ、よろしくお願いします!」と返していた。


「高瀬さん、どうかされましたか? 宿泊場所、見つかったんですか?」
「あぁ、森川さんが見つけてくれたんだが……」
「見つけてくれたけど……?」
「一部屋だけ、だそうだ」
「へ……? 部屋が、ひとつ?」


 萌衣は珍しく、間抜けな声を出してしまった。


(部屋が一つってことは、朝まで一緒ってこと……!?)


 それでも高瀬は「よろしくお願いします」と言ったのだ。きっと、一部屋あるだけでも有難い状況なのだろう。
 萌衣の考えを察したのか、高瀬は頭を少しかいて困ったように言った。


「あー……いや、俺は床で寝てもいいから、とにかく休める方が良いだろ?」
「あ、いえ、高瀬さんがベッドで寝てください。私が床で寝ます」
「それはさすがに……。まぁ、ひとまず旅館に移動しよう。前、朝比奈が行きたいって言ってたような旅館かもしれないぞ?」
「そうなんですか……?」


 高瀬に連れられ、とある旅館に辿り着いた。
 老舗和風旅館といった趣だ。森川家が昔から懇意にしている旅館らしく、ここの一部屋をなんとかおさえられたという。

 以前、高瀬とブックカフェで見たガイドブックの、温泉宿特集と重なる。
 露天風呂ではなかったが、大浴場があり、この“非日常”が萌衣の心を昂らせた。


『……だめだめ、旅館だからって浮かれてちゃ。今日は出張なんだし。それに、高瀬さんは社長令嬢とのお見合いも控えてるんだから、とにかく距離感には気をつけなきゃ』


 そう自分に言い聞かせ、萌衣は鞄を持つ手にきゅっと力を入れた。
 そしてふと、我に返る。泊まりに必要なものを何も持っていないということに気づいてしまった。


「高瀬さん、近くのコンビニに行ってきていいですか? 足りないもの、買い足しておきたくて」
「あぁ、じゃあ俺は先に荷物を置いてくる」
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