雨の日が苦手だった、私たちは
 萌衣は急いで、コンビニに向かった。
 相変わらず外は土砂降りで、持ってきた折り畳み傘ではどうも心許ない。

 それでも、昂った心を落ち着かせるには、一人になる時間が必要だった。何かしていないと、そわそわしてしまう。


(えーっと、下着とスキンケアと……あと、何かあるかな)


 レジの近くに、金沢銘菓のきんつばが置いてあった。それを二つ手に取り、レジに持って行く。


(高瀬さん、喜んでくれるかな)


 距離を取ろうと決めても、結局、高瀬が喜ぶことを考えてしまう。レジ袋を握りしめ、萌衣は再び大雨の中に飛び込んでいった——。





 旅館に戻り、宿泊する部屋へと足を踏み入れる。
 そこには、ネクタイを外して少し気が緩んでいる高瀬がいた。そして、澄んだ双眸が萌衣を真っ直ぐとらえた。


「……朝比奈、びしょ濡れじゃないか。バスタオル持ってくるから。あ、もうお風呂に行ってきたらどうだ? 雨で冷えただろう」
「すみません、タオルもありがとうございます」


 タオルを受け取り、水滴を拭き取る。
 荷物を置いて、早速、大浴場に行くことにした。

 その間も、高瀬はもう一仕事するらしい。今日やっと大型の契約がまとまったというのに、彼はもう次のことを考えているのだ。

 人もまばらの大浴場で、萌衣は温泉に浸かりながらぼうっと波紋を眺めていた。


(高瀬さん、ずっと気遣ってくれてる。今日は私も、少しは役に立てたかな……)


 ちゃぷ、と小さな音が耳に届く。
 コンビニに行った時と同じで、結局、頭に浮かぶのは高瀬のことばかりだった。

 なんとかこの気持ちに折り合いをつけようと決めたのに、何度も彼の優しさに触れて、思いは募っていく一方だ。

 
(……よし、決めた)


 高瀬と過ごす時間はまだまだある。
 だから、お見合いの話がどうなっているのか、それとなく聞いて。
 良い方向に進んでいるのであれば、ちゃんと線を引こう。本当は、あまりお見合いの話も聞きたくないけれど……。


『自分がどうしたいかを大事にしてね』


 ふと、杏奈の言葉が頭を掠める。
 聞きたくない。でも、前に進みたい。
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