雨の日が苦手だった、私たちは

 ダメかもしれないけど、この気持ちを無かったことにしたくないから——。


 萌衣は立ち上がり、意を決して客室へと戻っていった。
 扉を開けると、高瀬はパソコンを閉じてお茶を飲んでいた。一区切りついたのかもしれない。
 こちらを見て「お、戻ったか?」と言った。そして、彼の頬が少し緩んだ。

 優しく笑う姿は、自分に心を許してくれているんじゃないかと、勘違いしそうになる。

 萌衣は心の中で首をふり、笑顔を作った。

 
「はいっ、大浴場、気持ちよかったです。高瀬さん、お茶を飲んでるなら……こちらもどうぞ」
「え? きんつば?」
「はい、さっきコンビニに行った時、地元のお菓子が並んでいたのでつい。……あ、いらなかったら、私が食べるので」
「いや、いる。ありがとう。朝比奈も一緒に食べよう。お茶、淹れるから」
「あ、ありがとうございます……」


 高瀬は急須を持ち、湯呑みにお茶を注いだ。
 二人でお茶を口に含み、ふうとひと息つく。そして、コンビニで買っておいたきんつばを手にした。


「ん、美味しいですね。餡がずっしり詰まってて、でも上品な味わい……お茶に合います」
「あぁ、なんだか落ち着くな。それにしても、今日は本当にありがとうな」
「高瀬さんのお役に立てましたか?」
「朝比奈がいなかったら、契約は取れなかったよ。取れたとしても、どこかのタイミングでトラブルになっていたかもしれない」
「……そうなのでしょうか?」
「朝比奈がいてくれて、よかった」


 真っ直ぐ視線を向けられ、まるで射抜かれたように固まってしまう。とくとくと、心音が早まっていく。
 その視線に耐えきれず、萌衣はふいっとそらしてしまった。


「そんな、元々は高瀬さんが全部取りまとめた案件ですし、私はただ、数字以外に何か見つかればって……」
「数字以外、な」


 そう言って、高瀬はお茶をひと口含んだ。
 そして突然黙ってしまった。何か、考えているようだ。
 萌衣は、言ってはいけないことを言っただろうかと、高瀬の様子を伺った。


「数字は裏切らないし、感情と切り離した方が合理的だと思ってたんだけどな……」
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