雨の日が苦手だった、私たちは
土砂降りとキス(2)
それから、高瀬は「そうか」とだけ言って、大浴場に行ってしまった。それぞれ時間を過ごしていると、あっという間に夕食の時間を迎えた。
「わぁ……すごい、美味しそうですね! 高瀬さん!」
「あぁ、そうだな……」
目の前には、旬の魚を使ったお造りや、鴨肉を使った「治部煮」、加賀れんこんのはさみ揚げなどがずらりと並んでいた。
萌衣は「はぁ……美味しそう……」と声を漏らすのに対して、高瀬は無表情だ。萌衣の問いかけにも、「あぁ」と短く答えるだけで、心ここにあらずといった様子だった。
「あのー高瀬さん? せっかくなので、早くいただきましょう?」
「……そうだな、いただきます」
そして再び、カチャと食器を動かす無機質な音だけが聞こえた。二人を取り巻く空間は静まり返っているのに、外では激しい雨が降り続いていた。
「……高瀬さん、今日はバケツをひっくり返したような雨でしたね。こんなに降っていて、土砂崩れとか大丈夫なんでしょうか」
「あぁ、本当だな」
「あの……どうしました?」
「え?」
「さっきから、ずっと上の空ですよ?」
高瀬は「そうだな」と呟いて、ゆっくり箸を置いた。ふうとひと息ついて、窓の外へと視線を向ける。
「なんでだろうな、うまく言葉にできないんだけど……仕事で疲れてるのかもしれないな」
「うまく言葉にできない、ですか……。なんだか、意外ですね」
「そうか?」
「はい。高瀬さんと仕事をし始めた頃、高瀬さんは『雨が苦手』ってはっきり言ったじゃないですか。私とは真逆だなって。だから、うまく言葉にできない高瀬さんは、新鮮です」
ふふ、と笑うと、視線を外に向けていた高瀬と目が合った。
旅館の浴衣を着て、いつものような緊張感はない。でも、真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「……初めて何かに出くわすと、うまく言葉にできないのかもしれないな」
「何かというのは……?」
「……そうだな、感情?」
「初めて出会う感情、ですか。なるほど……」
その意味を理解しようとするけれど、高瀬がうまく言葉にできないものを、萌衣ははっきりとは理解できなかった。
「わぁ……すごい、美味しそうですね! 高瀬さん!」
「あぁ、そうだな……」
目の前には、旬の魚を使ったお造りや、鴨肉を使った「治部煮」、加賀れんこんのはさみ揚げなどがずらりと並んでいた。
萌衣は「はぁ……美味しそう……」と声を漏らすのに対して、高瀬は無表情だ。萌衣の問いかけにも、「あぁ」と短く答えるだけで、心ここにあらずといった様子だった。
「あのー高瀬さん? せっかくなので、早くいただきましょう?」
「……そうだな、いただきます」
そして再び、カチャと食器を動かす無機質な音だけが聞こえた。二人を取り巻く空間は静まり返っているのに、外では激しい雨が降り続いていた。
「……高瀬さん、今日はバケツをひっくり返したような雨でしたね。こんなに降っていて、土砂崩れとか大丈夫なんでしょうか」
「あぁ、本当だな」
「あの……どうしました?」
「え?」
「さっきから、ずっと上の空ですよ?」
高瀬は「そうだな」と呟いて、ゆっくり箸を置いた。ふうとひと息ついて、窓の外へと視線を向ける。
「なんでだろうな、うまく言葉にできないんだけど……仕事で疲れてるのかもしれないな」
「うまく言葉にできない、ですか……。なんだか、意外ですね」
「そうか?」
「はい。高瀬さんと仕事をし始めた頃、高瀬さんは『雨が苦手』ってはっきり言ったじゃないですか。私とは真逆だなって。だから、うまく言葉にできない高瀬さんは、新鮮です」
ふふ、と笑うと、視線を外に向けていた高瀬と目が合った。
旅館の浴衣を着て、いつものような緊張感はない。でも、真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「……初めて何かに出くわすと、うまく言葉にできないのかもしれないな」
「何かというのは……?」
「……そうだな、感情?」
「初めて出会う感情、ですか。なるほど……」
その意味を理解しようとするけれど、高瀬がうまく言葉にできないものを、萌衣ははっきりとは理解できなかった。