雨の日が苦手だった、私たちは
(き、緊張してきた……布団もくっついてるから、すごく近いし。というか仲居さん、私たちのことカップルだって勘違いしたの……? わざわざ布団を離したら、すごく意識してるみたいだし……)
萌衣も寝返りを打ち、天井を見上げる。視界の端に、高瀬の姿が入った。布団の端を指でつまみ、数センチだけそっとずらす。
そしてきゅっと瞼を閉じ、穏やかになった雨音に耳を澄ませた。
一定のリズムを刻むその音に、萌衣はあっという間に眠りへと誘われていった——。
***
「朝比奈、おはよう」
「高瀬さん、おはようございます」
「朝、早いな。いつも早く起きてるのか?」
「いつもお弁当を作ってるので、つい癖で……」
そう言って笑顔を見せると、高瀬はなんとも言えない表情をしている。「そうか」と呟いて、ぼうっとその場に立っていた。
こんな風に寝起きの彼を見るのはもちろん初めてで、なんだかくすぐったい。また、他の人の知らない一面を見つけてしまった気がした。
でも、こういうことで喜ぶのはもうやめよう。
手を動かしていれば余計なことを考えなくて済むと、萌衣は帰り支度を始めた。
「高瀬さん、また外が激しい雨になってきました。明け方まで雨が止んでたんですけど……高瀬さん?」
反応がなく、不思議に思って振り向くと、すぐ近くに高瀬がいた。
いつもと空気が違う気がする。なんだろう、この感じ……。
萌衣は慌てて、用件だけを並べていく。
「どうしました? あ、チェックアウトの時間に合わせて、タクシーを手配しますので……」
「お弁当」
「え?」
突然降ってきた言葉に、萌衣は首をかしげた。
「お弁当、もう作ってくれないのか?」
「……はい。昨日、言いましたよね? 私の仕事じゃないって」
「……」
もっともなことを言ったつもりだった。
いつもの高瀬なら、「確かにそうだよな、今まで負担をかけて悪かった」と申し訳なさそうな顔で言ってくれるはずだ。
——その、はずだった。