雨の日が苦手だった、私たちは

 高瀬は無言で、こちらをじっと見つめるだけだった。じりじりと距離が縮まり、いつの間にか壁と彼に挟まれるような形になっていた。

 外からは激しい雨音が聞こえるものの、二人の間に言葉はない。しん、と静まり返っている。


(どうしよう、なんで何も言ってくれないの……?)


 じっと見つめ返すと、高瀬の顔がこちらに近づいてきた。

 唇がかすかに触れ、萌衣は呆然とする。
 一瞬だったけれど、確かに触れた——。


(え、なんで、キス……?)


 恐る恐る、目の前で呆然としている彼に向かって声をかけた。


「高瀬、さん……?」


 何も返ってこない。
 まるで、自分でもなぜキスをしてしまったのか分からない、という顔だ。

 どうするのが正解なのか、分からない。このキスの意味を聞くのが怖い。
 高瀬の喉がかすかに動き、ぽつりと声を落とす。まるで葉から雫がぽとりと落ちるように。


「……急に、ごめん」


 落ちた雫はすぐに消えて、静けさだけが残る。
 でも、その言葉は(やいば)のように胸に突き刺さって、抜けそうになかった。


「高瀬さん……」
「……?」
「私、今すごく、悲しいです……」


 萌衣は振り絞って、今出せるだけの感情を彼に渡した。
 悲しい。その感情は深くて、重い。
 その行為は間違いだったかのように謝られてしまった。どうして、と思う。
 
 でも、刺さった刃を抜いたら、もう全てが溢れて止められなくなる。
 言ってはいけない言葉まで吐き出してしまいそうだ。「悲しい」と伝えると、高瀬はひどく傷ついたような顔をしていた——。

 
 その後は、朝ごはんの味も、高瀬と何を話したのかも、何も覚えていなかった。

 気づいたら、いつの間にか金沢駅のホームにいた。
 あのキスの後、雨も止み、電車の運行も再開していた。


「やっと帰れるな」
「……はい、良かったです」
「せっかくの休みなのに、半日潰れて悪かった」
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