雨の日が苦手だった、私たちは

「仕方ないです。天候は高瀬さんのせいじゃありません。それに、半日潰れたのは、お互い様じゃないですか」
「……それもそうだな」


 電車に乗る直前、萌衣はふと“あること”を思い出した。


「高瀬さん。今回、ほとんど観光できませんでしたよね? きんつばは食べましたけど、金箔ソフトはまだ食べてません」


 萌衣の言葉に、高瀬は虚をつかれたような顔をする。そして、ははと笑った。


「確かに、今回は食べられなかったな。次は仕事じゃなくて、旅行で来ればいい。その時に食べるよ」
「そう、ですよね……!」
「席、座ろう。もう出発する」


 高瀬に促され、萌衣は新幹線の座席に腰を下ろす。
 行きはあんなにリラックスして、高瀬にもたれて寝てしまったのに、帰りはどうだろう。緊張して、うまく息ができない気がする。

 まるで、部署異動したあの日のようだ。
 緊張している理由は、多分、キスをしてしまったから……。


「朝比奈、帰りも寝て帰っていいぞ。まぁ、何をするのも朝比奈の自由だな」
「……はい、ありがとうございます。お言葉に甘えて、寝ちゃいますね」
「あぁ」


 帰りは萌衣が窓側の席だったこともあり、壁に寄りかかるようにして目を閉じる。
 薄目を開けて様子を伺うと、高瀬も腕を組んで目を瞑っていた。


***


 週が明け、いつもと変わらない日々が始まる。

 いつもと変わらないはずなのに、萌衣と高瀬を取り巻く空気は明らかに変化していた。空気に敏感な萌衣には、それが余計にはっきりと感じられた。


「高瀬さん、YAMAMIさんの発注処理ですが……」
「あぁ、俺の方でやっておいた」
「え、高瀬さんが?」
「ちょうど手が空いたから。だから、朝比奈はもう対応しなくて良い」
「……ありがとうございます」


 こうして、高瀬が事務処理を自分で済ませてしまうことも増えていった。
 前よりもさらに案件数が増えているのだから、以前と同じように仕事を振ってほしいのに——。
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