雨の日が苦手だった、私たちは
 以前、会食の場で、東雲サエが「私は社長の器ではありません」と言っていたことを思い出す。


「社長に向いていないのは、俺の方か」


 食べ終わった容器をまとめ、その場を立ち上がった。

 今までだったら、昼食を食べない生活に戻していただろう。
 でも、それでは朝比奈の気遣いを無碍にすることになる。そう思い、せめて何かしら胃に入れることにした。

 確実に、何かが狂い始めていることを自分でも感じ取っていた——。


***


 オフィスに戻ると、朝比奈と若井が笑い合っている姿が目に入った。

 その姿を見ると、妙に胸がざわついて落ち着かない。自分の席に座ると、朝比奈が声をかけてきた。

 
「高瀬さん、聞いてください、若井くんってばまたお客さんからお菓子をもらったらしくて」
「なんですかね、『ちゃんと食べてるのか? お前は孫と同年代だからな』って言われて。俺、孫だと思われてるんでしょうか」


 それを受けて、朝比奈は「ふふ」と笑っている。
 ここでどう答えるのが正しいか。考えた結果、口をついて出た言葉はあまりにも陳腐だった。

 
「そうか」


 これがもしクライアントだったら。
 もし飲み会の席だったら。
 
 相手が喜びそうな言葉を並べて、気持ちよくさせることができただろう。今までだって、そんなことは簡単だった。仕事だったから。でも、今は——?

 あまりにも感情の乗っていない言葉で言い放ったせいか、朝比奈は苦笑いを浮かべている。若井はというと、特に何も気にしていないらしく、もらった菓子を食べていた。


「あ、高瀬先輩もどうですか? このお菓子、美味しいですよ?」


 そう言って、若井が箱に入った菓子を差し出してきた。
 以前、朝比奈と飲み会に参加した時は、甘党であることをもう公表しても良いと思っていた。実際、朝比奈にはそう伝えた。

 でも、なぜか今は、素直に手が出ない。


「……あぁ、悪い、俺は甘いものを食べないんだ」
「そうなんですね。確かに、高瀬先輩ってお菓子とか食べるイメージがないかもしれないです」
「えっ……?」


 納得した様子の若井の隣で、驚いたように朝比奈がこちらを見た。
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