雨の日が苦手だった、私たちは

 無言で仕事を再開する。
 ちらりと、朝比奈からこちらの様子を伺うような視線を感じた。でも、それに応えることなく、目の前の仕事に没頭した。

 朝比奈の視線は若井の方に向き、二人はまた和気あいあいとした雰囲気で話し始めた。


(朝比奈が誰と仲良くなろうと、俺には関係ない)


 燻った気持ちの上にラベルを貼るように、自分に言い聞かせる。感情が煩わしくて、振り払うように仕事を詰め込んだ。

 いつも通り仕事をしている——はずだった。


「あのー、高瀬さん?」
「ん、どうした?」
「北陸テクニカルさんの伝票、私やりますよ?」
「あー……悪い、もう終わらせた」
「悪いって、高瀬さんが謝ることでは……。むしろ、私がやるべきなのに、すみません」
「いや、あー……朝比奈は、若井のサポートをしてくれればいいから」


 そう伝えると、彼女の目が大きく開いたように見えた。それは一瞬のことで、すぐさま笑顔を向けられる。


「……はい、お気遣い、ありがとうございます」


 そして、朝比奈は若井の方に顔を向けた。
 黒い靄が、少しずつ渦巻いていく。

 見たくもない、今まで避けてきた感情に、もう目を背けることが難しくなってきていた。

 その場から立ち上がり、急いでリフレッシュルームに向かう。
 自販機のボタンを押し、缶コーヒーを手に取った。最近は朝比奈が淹れてくれるコーヒーばかり飲んでいたから、ここで飲むのは久しぶりだった。

 一口飲んで、はぁと息を吐き出す。ぽつりと、声がこぼれた。

 
「……俺は、何を期待してるんだ」


 仕事を詰め込んだのも、朝比奈に仕事を振らなかったのも、自分だというのに。

 彼女が若井と楽しそうに話しているのを見ると、妙にいらいらする。
 その感情に名前をつけるとしたら、なんなのか。


「若井に向けるなよ、その笑顔を」


 缶を握る手に、ぎゅっと力が入る。軋む音が聞こえた。思わずこぼれた本音は、独占欲に(まみ)れていた。


(……違う。こんな感情、俺のものじゃない)


 今まで守ってきたものが壊れてしまいそうで、焦りが込み上げていた——。


***
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