祝福のあとで
第24章 境界線の内側
 玄関の方から、
 靴を脱ぐ音が聞こえた。

 続いて、
 控えめな足取り。

 ひかりは、
 リビングの手前で立ち止まり、
 小さく背筋を伸ばす。

 先に姿を現したのは、
 直だった。

 そのすぐ後ろに、
 由里が続く。

 室内に入った瞬間、
 由里の視線がひかりに向かう。

 一拍。

 直が、
 迷いのない声で言った。

「……ひかり。
 俺の、恋人」

 それだけ。

 余計な説明も、
 照れた様子もない。

 事実を、
 そのまま置くみたいな言い方。

 その声を聞いたとき、
 ひかりは、
 ほんの一瞬だけ引っかかった。

 直が名前を呼ぶとき、
 その響きだけが、
 少しだけ特別に聞こえた。

 理由は分からない。

 ただ、
 他人に向ける呼び方とは、
 どこか違う気がした。

 ひかりは、
 その言葉を受け取ってから、
 静かに頭を下げた。

「はじめまして」

 由里は、
 一瞬きょとんとして、
 それから、ぱっと表情を明るくする。

「え、そうなんだ!」

 声に、
 驚きと一緒に、
 素直な笑いが混じる。

「全然知らなかった。
 直くん、そういうの言わないから」

 くすっと笑ってから、
 由里はひかりに向き直り、
 少しだけ楽しそうに言った。
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