祝福のあとで
 本当は、仕事の予定だった。

 誕生日でも、
 特別扱いされるつもりはなかった。

 直が目の前にいる今も、
 その予定は変わらないはずで。

 ——そう思っていた。

 そのとき、
 ひかりのスマートフォンが鳴った。

 画面に表示されたのは、
 職場の同僚の名前。

 直が、
 「どうぞ」というみたいに、
 小さく顎を引く。

「もしもし」

『おはよー!』

 明るい声。

『今日、誕生日でしょ?』

「……え?」

『SNS見た!
 だからさ』

 一拍も置かずに続く。

『今日は休みなよ!
 誕生日なんだから』

 ひかりは、
 思わず直を見る。

 直は、
 会話の内容は分からないまま、
 静かに様子を見ている。

「え、でも仕事……」

『いいのいいの』

 即答。

『誕生日はエンジョイしなきゃ!』

 笑い声が混じる。

『今日はお祝いしなよ』

 ひかりは、
 少しだけ迷ってから答えた。

「……ありがとう」

『じゃ、決まりね!
 楽しんで!』

 それだけ言って、
 電話は切れた。

 スマートフォンを下ろして、
 ひかりは一度、深く息を吐く。

「……休みになりました」

 直が、
 少しだけ目を細める。

「誕生日、だから?」

「うん」

 直は、
 それを聞いて小さく笑った。

「じゃあ」



「今日は、
 ちゃんと誕生日だな」

 ひかりは、
 思わず笑ってしまう。

「そうみたいです」

 直は、
 ひかりの手を取るでもなく、
 ただ隣に立って言った。

「行こうか」

 どこへ、とは言わない。

 でも、
 今日はそれで十分だった。

 海外で迎える誕生日。

 予定外の再会と、
 予定外の休日。

 ズレはまだある。

 それでも今日は、
 何も考えずに、
 ただ一緒に過ごしていい日だった。
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