祝福のあとで
外に出ると、
 昼の光が思ったより眩しかった。

 ひかりは、
 一瞬だけ目を細めてから言う。

「で、どこ行く?」

 直は、
 少し考える素振りをしてから首を振った。

「特に決めてない」

「それ、来る前から言いそうだと思ってた」

 ひかりが笑うと、
 直も小さく息を吐く。

「ひかり、行きたいとこない?」

「うーん……」

 本気で考えて、
 それから肩をすくめた。

「特にはないかも」

 直は、
 その答えを待ってたみたいに言う。

「じゃあさ」

 一歩、ひかりの隣に並んで。

「ひかりが普段行ってるとこ、
 一緒に行きたい」

「え」

「観光地じゃなくていい」

 前を見る横顔は、
 静かだけど迷いがない。

「ここでどんなふうに生活してるか、
 知りたい」

 ひかりの胸が、
 少しだけきゅっとなる。

「……地味だよ」

「それがいい」

 即答だった。

 二人で歩き出す。

 ひかりがよく使う道。
 いつも寄るベーカリー。
 お気に入りのカフェ。

「ここ、朝よく来る」

「一人で?」

「うん」

「じゃあ今日は二人だな」

 それだけで、
 いつもの場所が少し違って見えた。

 パンを買って、
 コーヒーをテイクアウトして、
 川沿いのベンチに座る。

 直は、
 ひかりの隣でゆっくり息を吐く。

「……いいとこだな」

「でしょ」

「ひかりがここにいるの、
 想像できる」

 ひかりは、
 コーヒーを飲みながら、
 横目で直を見る。

「想像してたんだ」

「うん」

 あっさり。

「写真だけじゃ足りなかった」

 しばらく、
 言葉のない時間。

 風が通って、
 紙袋がかさっと鳴る。

「誕生日なのに、
 こんなのでよかった?」

 ひかりが聞くと、
 直は少しだけ首を傾ける。

「俺は、すごくいい」

「……ほんとに?」

「ほんと」

 間を置かずに。

「ひかりの時間に、
 混ざれたから」

 ひかりは、
 何も言えなくなって、
 小さく笑った。

 帰り道。

 直が、
 ふと思い出したみたいに言う。

「ケーキ、買って帰ろ」

「うん」

 小さなケーキ屋で、
 二人並んで選ぶ。

「これ、ひかりっぽい」

「それ、直が好きそう」

「じゃあ両方」

「即決すぎ」

「誕生日だから」

 家に戻って、
 テーブルにケーキを置く。

 ろうそくはない。
 でも、十分だった。

 直が言う。

「改めて」

 ひかりを見る。

「誕生日おめでとう」

 ひかりは、
 少し照れて視線を逸らす。

「……ありがとう」

「来れてよかった」

 それだけ。

 二人でケーキを食べる。

 甘さが、
 静かに広がる。

 ひかりは、
 フォークを置いて言った。

「今年の誕生日、
 多分ずっと覚えてる」

 直は、
 少しだけ笑った。

「俺も」

 海外の街で、
 予定通りじゃない一日で。

 でも、
 ちゃんと隣にいる人と過ごした誕生日だった。
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