祝福のあとで
ひかりは、
少しだけ息を吸ってから口を開いた。
「……専門学校時代の人」
一拍。
言い直す。
「その頃、
付き合ってた人」
事実だけを、
静かに置く。
直の足取りが、
ほんのわずかに緩む。
でも、
立ち止まらない。
「今日は、
同級生の二次会だから」
説明というより、
確認みたいな声。
「来る可能性は、
あるって分かってた」
だからこそ、
心が動いたことを、
否定しなかった。
「でも」
ひかりは、
そこで一度だけ、
直を見る。
「もう、
終わってる」
短く、
はっきり。
直は、
その言葉を受け取って、
視線を前に戻した。
「……何か言われた?」
低い声。
責めるでも、
詰めるでもない。
ひかりは、
首を振る。
「昔の話を、
少しだけ」
間。
「直のこと、
聞かれた」
直の指が、
ひかりの手を、
きゅっと一度だけ握る。
強くはない。
でも、
離さないという意思だけが、
はっきりしていた。
「ごめん」
直が言った。
理由は、
言わない。
ひかりは、
すぐに首を振る。
「直が謝ることじゃない」
即答だった。
「私が、
選んだことだから」
その言葉に、
直の肩から、
少しだけ力が抜ける。
「……そっか」
それだけ。
でも、
声の硬さは、
確かに和らいでいた。
沈黙が戻る。
さっきとは違う。
ちゃんと、
並んで歩いている沈黙。
直が、
歩きながら低く言う。
「話してくれて、ありがとう」
ひかりは、
その言葉に、
小さく笑った。
「……言わない方が、
嫌だった」
直は、
一瞬だけひかりを見る。
「俺も」
短い言葉。
でも、
迷いはなかった。
二人の歩幅は、
いつの間にか、
自然に揃っていた。