祝福のあとで

 付き合う、でいいですか。

 口にした瞬間、
 揺らぎはなかった。

 確かめる形をとったのは、
 彼女が“選ぶ側”であることを、
 ちゃんと残したかったからだ。

 小さく頷いた彼女を見て、
 直は、ようやく息を吐いた。

 大きく何かが変わったわけじゃない。

 店の空気も、
 ジャズの音も、
 グラスを置く音も、同じだ。

 それでも。

 この夜は、
 もう“客と店主”の間には、戻らない。

 恋人としての一杯。

 そう言った自分の言葉が、
 思ったより自然だったことに、
 直は、少しだけ驚いた。

 きっと、ずっと前から。

 彼女がここに来る理由と同じものを、
 自分も、この場所で見つけていたのだと思う。

 無理をしなくていい時間。
 答えを急がなくていい距離。

 そして、
 誰かの隣に、
 静かに立っていられること。

 それが、
 好きになる、ということなら。

 直はもう、
 十分すぎるほど、そこにいた。
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