祝福のあとで
最初に聞こえたのは、
コーヒーを淹れる音だった。
湯が落ちる、静かな音。
カップが触れ合う、控えめな音。
ひかりは、
その規則正しさで、ゆっくり目を覚ました。
天井が、見慣れない。
一瞬、どこにいるのかわからなくて、
それから、身体の重みで思い出す。
——あ。
昨日の夜のことが、
輪郭を持って戻ってくる。
ひかりは、布団の中で小さく息を吸って、
視線を横にずらした。
もう、直はいない。
代わりに残っているのは、
人の気配と、
まだ少しだけ残る体温。
恥ずかしさが、遅れてやってきて、
ひかりは、布団を引き寄せた。
——昨日は、余裕なんてなかった。
そう思って、
自分で少しだけ笑ってしまう。
カウンターの向こうから、
今度はカップが置かれる音がする。
ひかりは、そっと起き上がった。
カーテンの隙間から、
朝の光が入っている。
部屋は、思っていたよりもすっきりしていて、
生活の匂いが、きちんとある。
バルコニーの向こうに、
街が見えた。
夜とは違う表情。
静かで、少しだけ柔らかい。
——昨日は、気づかなかった。
そんなことを考えていると、
「起きました?」
キッチンの方から、
直の声がした。
ひかりが振り向くと、
彼はマグカップを持って立っている。
シャツの袖をまくって、
いつもより、少しだけ力の抜けた姿。
「コーヒー……」
ひかりは、思わず言った。
「カクテルだけじゃないんですね」
直は、小さく笑う。
「一応、朝も生きてるので」
その言い方が、
妙に可笑しくて。
ひかりは、ソファに腰を下ろして、
差し出されたマグを受け取る。
温かさが、手に伝わる。
一口飲んで、息をついた。
「……落ち着きます」
「それなら、よかったです」
昨日と同じ言葉。
でも、意味は、少し違う。
ひかりは、
無意識にバルコニーの方を見る。
「景色、きれいですね」
「朝は、割と好きなんです」
直がそう言って、
隣に立つ。
距離は近い。
でも、急がない。
風が、カーテンを揺らす。
ひかりが顔を上げたとき、
直の視線と、ぶつかった。
コーヒーを淹れる音だった。
湯が落ちる、静かな音。
カップが触れ合う、控えめな音。
ひかりは、
その規則正しさで、ゆっくり目を覚ました。
天井が、見慣れない。
一瞬、どこにいるのかわからなくて、
それから、身体の重みで思い出す。
——あ。
昨日の夜のことが、
輪郭を持って戻ってくる。
ひかりは、布団の中で小さく息を吸って、
視線を横にずらした。
もう、直はいない。
代わりに残っているのは、
人の気配と、
まだ少しだけ残る体温。
恥ずかしさが、遅れてやってきて、
ひかりは、布団を引き寄せた。
——昨日は、余裕なんてなかった。
そう思って、
自分で少しだけ笑ってしまう。
カウンターの向こうから、
今度はカップが置かれる音がする。
ひかりは、そっと起き上がった。
カーテンの隙間から、
朝の光が入っている。
部屋は、思っていたよりもすっきりしていて、
生活の匂いが、きちんとある。
バルコニーの向こうに、
街が見えた。
夜とは違う表情。
静かで、少しだけ柔らかい。
——昨日は、気づかなかった。
そんなことを考えていると、
「起きました?」
キッチンの方から、
直の声がした。
ひかりが振り向くと、
彼はマグカップを持って立っている。
シャツの袖をまくって、
いつもより、少しだけ力の抜けた姿。
「コーヒー……」
ひかりは、思わず言った。
「カクテルだけじゃないんですね」
直は、小さく笑う。
「一応、朝も生きてるので」
その言い方が、
妙に可笑しくて。
ひかりは、ソファに腰を下ろして、
差し出されたマグを受け取る。
温かさが、手に伝わる。
一口飲んで、息をついた。
「……落ち着きます」
「それなら、よかったです」
昨日と同じ言葉。
でも、意味は、少し違う。
ひかりは、
無意識にバルコニーの方を見る。
「景色、きれいですね」
「朝は、割と好きなんです」
直がそう言って、
隣に立つ。
距離は近い。
でも、急がない。
風が、カーテンを揺らす。
ひかりが顔を上げたとき、
直の視線と、ぶつかった。