先輩、好きです。
誰かが持っていったまま戻さなかったんだろう。
こういうことはよくある。
それで持ってきてくれたのが矢吹だったわけで、きっとこの行為に深い意味は無い。
「……ありがとう」
ぎこちなく伸ばした指が、差し出されたボトルの側面を掴もうとした瞬間────
────ふ、と熱が触れた。
互いの指先がかすかに重なる。
ほんの一瞬。
受け渡しの際に偶然触れただけの、取るに足らない接触だった。
それなのに、触れた場所から熱が染み込んでくるような錯覚に襲われる。
別に、ただ指がほんの少し触れただけ。
山岸なんて普通に手を掴んできたし、そんなこと、今までいくらでもあった。
あったはずなのに。
「お願いします」
矢吹はひと言だけそう言って、踵を返した。
いつも通りの声音で、今の出来事を気にした様子なんて少しもない。
それどころか、昨日の告白すら嘘だったんじゃないかと思うくらい涼しい顔をしていた。
「矢吹君、やっぱかっこいいな……」