Toxic・Romance
 
 確かに、片桐さんは、頑張れば納期に間に合う量しか寄越さないし、並行した作業は一度もない。納品を確認して、次の仕事。おそらく最初の段階で見極められていたのだろう。
 
「それは馨のせいじゃないでしょ」

「周りは分かっても、本人は納得しないよねー」

 うん、わかる。本人は絶対に納得しない。柔和な雰囲気を持つあの人の中身は、とても頑固だ。

「今度は自分が倒れそー……」

「な。馨、今日も残業?」

「いーや。でも定時で帰るの金曜くらいじゃね」

「その金曜も釣れねえんだよなあ」

「仕方ないっしょ、愛しのユキちゃんの為じゃん?」

「(ユキ……?)」

 突然、私の脳内には無い名前が飛び出し、みぞおちのあたりがきゅう……っと締め付けられるような心地がした。

「(ユキって、だれだろう……)」

 考えてもわからないし、片桐さんに聞くこともおそらくできない。

「(関係、ない)」

 私にとって片桐さんは、創作のモチベーションのひとつ。雑に仕事を配分する嫌な人。嫌いな人。……の、はずだった。

 なのに、心がざわざわとして落ち着かないのはどうしてだろう。
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