Toxic・Romance


 青藍PRのオフィスフロアにたどり着く頃には、私の感情は落ち着きを取り戻していた。AInueとは空気がちがう。整然と並んだデスク。通路を歩く人たちは、視線を交わしても立ち止まらない。必要があれば名前を呼び、なければ通り過ぎる。人間関係も、業務の一部みたいだ。

 そして彼は、この空気の中に違和感なく溶け込んでいる。

「……片桐さんだ」

 喫煙所で見る、気だるげで無表情で、低燃費な彼とは、まるで別人だ。

「お疲れさまです。AInue 企画コンテンツ部、月島です」

「ああ、お待ちしてました」

 近くの社員らしき人に伝えれば、そのひとは片桐さんの元へ私を案内してくれた。

「お疲れ。こちら、どうぞ」

 その後案内されたのは、執務スペースの奥にあるちいさなミーティングルームだった。ガラス張りで、外から中が見えるタイプの部屋。けれど今は誰もいない。

 ――ふたりきり。

 そう意識した途端、さっきまで平気だった胸が、わずかに騒ぎ始める。

「どうぞ」

 先に椅子を引かれて、反射的に「ありがとうございます」と腰を落とした。片桐さんは対面ではなく、斜め向かいに腰を下ろした。距離はあるのに、視界にはちゃんと入ってしまう。
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