Toxic・Romance


 できると思ったのは結局独りよがりで、こころが擦り切れるのは簡単で、蓄積された感情を過去にできるのは困難で、私は、こんなにも、よわい。

 叱ってほしい。それから、がんばったね、と褒めてほしい。無条件で、できれば気兼ねない、他人のような距離感で。

「(…………かたぎりさん)」

 ああ、どうして。

 こんな時に浮かぶのが、あの人なのだろう。




 一人の帰り道、イヤホンを耳にいれて、スマホを取り出して、お気に入りの曲を流した。けれど、気分は一向にあかるい兆しを見せなかった。

 メッセージアプリのいちばん最初に開いた相手、打ったメッセージに、ためらいは存在しただろうか。

《今、時間ありますか》

 送った瞬間に後悔した。迷惑だろう。自分のペースを乱されることをきらう人だ。こんな脈絡のない誘いに乗るはずがない。

 消去しようとした指を止めたのは、震えながら鳴り出した着信画面だった。悪意を込めて“社畜王子”とニックネームを変更していた。まさか着信が来るなんて思ってなくて、おもわずその画面を見て、くすりと笑ってしまった。

『どうしたの』

 イヤホンから直でひびく甘ったるいテノールは、私の涙腺を心地よく刺激した。
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