Toxic・Romance
しかし、それ以上の衝撃が私には存在した。胸をきゅんと撃ち抜かれるよりも先に、私の脳内にその情景がすっと入り込んできたのだ。物語のワンシーンが私の頭のなかで勝手に進む。
「今の良い!すごくいいです!」
言わせたい、ぜひ、私の薫に!
「そう……」
目をキラキラと輝かせる私とは変わって、片桐さんは何かを諦めたように、すんっと表情から色を消した。ちょっと、不安になる。
「え、なんですかその反応」
思わず問い詰めると、片桐さんの視線が逃げる。
「なんでもない。じゃあね」
「あ!片桐さん!?よければコーヒーでもお出ししますよ!」
振り向いた彼の背中に叫んでも、片桐さんは「はい」も「いいえ」もくれずに住宅街の薄闇に消えてしまった。
無視ですか、いいですよ。片桐さんの無視はもう慣れましたもん。
むすっと膨れていると、スマホが震えた。片桐さんからのメッセージだった。
《おやすみ》
それはまるでなくても困らない忘れ物をわざわざ届けてくれたような、貴重なひと言だった。
ふいうちのおやすみは危険だ……!
ドキドキと高鳴る鼓動を抑えながら返信を打つ。
《おやすみなさい。帰り道お気を付けて》
《俺が襲われると思ってる?》
《思ってます》
《襲われたら月島さんの責任ね》
「なぜ!?」
トークルームはほとんどが仕事の話だった。
催促、質問、催促、労い。
そのなかに混ざったプライベート。一度だけと思ったその会話は終わる兆しを一向にみせない。