Toxic・Romance


 いつもの、意地悪そうな笑みだけど、なぜだか私は、片桐さんがちゃんと聞いてくれたって安心感の方がつよくって、不意に涙腺がゆるみそうになった。

「いいですか」

 片桐さんが挙手する。場の雰囲気が引き締まるのを感じた。

「月島さんは言葉の読取が繊細ですし、人の心に刺さるワードを汲み取るのが上手です。シナリオとタイトルに関しては、彼女に一任してもよろしいかと」

「えっ」

 それはまた、ずいぶん横暴な案では……?

 片桐さんは私と仕事をしているけれど、他の方はほぼ初対面だ。不信感しか与えないと思う。

「それでは月島さん、幾つか提出してもらえますか?正直、上層部のおじ…………役員たちだけで考えたよねって丸わかりだったから、そっちが助かる」

 なんて思っていたけれど、さすがに仕事のできると噂の片桐さんは、他グループの社員からの信頼もあるのだろう。

「じゃあ懇親も兼ねて、このあと軽く飲みに行きませんか?グループチャットを作るので、そちらで返事をください」

 誰かの一言で、空気が一気にゆるむ。

「月島さんはどうします?」

 隣から訊ねられ、一瞬迷った。

「あー……えっと、顔を覚えてもらいたいので、参加しようかな」

 たぶん、片桐さんも参加するだろう。何はともあれ、お礼も言わなきゃ、という使命が私にはある。

「そうなんだ。じゃあ俺も参加しようかなー」

 私は適当に頷きながら、もう一度だけ、片桐さんの方を見た。片桐さんも誰かと話していたから、目が合うことはなかった。
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