Toxic・Romance
……あれ。言いたいこと、なんだったっけ。
頭の中がふわり、空白になって、黙り込んだ。喋るのがもったいない様な。けれど、きまずさは感じない。片桐さんは何事もないように、私の髪の毛を指で摘んだ。
「今、映画どの辺?」
毛先を摘んでいた手はふと向きを変え、指の間に髪の毛を丁寧に通すように撫でられた。ゆっくり、まるで髪の一本一本を確かめるみたいに。
「あ、ぇえっと、主人公の過去が始まりました」
その動作に気を取られ、確認が遅れる。
「ああ、くだらな」
片桐さんの過去は、くだらなくないですよ。
言いかけて、ぐるぐると感情で丸めた。私が言うのはたぶんおかしい。そのかわり、そうだ。あれを聞こう。
「あの、そういえば聞きましたよ」
「んー?」
「片桐さん、私を他の人にとられたくないから、私に仕事を放り投げてたんですね」
改めて言っても冗談にしか聞こえない。
片桐馨さまが、そんなバカバカしいことをするはずが無い。
「はは、バレたか」
片桐さんはくしゃりと顔を崩す。まるでいたずらがバレた時の子どものような。