Toxic・Romance


 ……あれ。言いたいこと、なんだったっけ。

 頭の中がふわり、空白になって、黙り込んだ。喋るのがもったいない様な。けれど、きまずさは感じない。片桐さんは何事もないように、私の髪の毛を指で摘んだ。

「今、映画どの辺?」

 毛先を摘んでいた手はふと向きを変え、指の間に髪の毛を丁寧に通すように撫でられた。ゆっくり、まるで髪の一本一本を確かめるみたいに。

「あ、ぇえっと、主人公の過去が始まりました」

 その動作に気を取られ、確認が遅れる。

「ああ、くだらな」

 片桐さんの過去は、くだらなくないですよ。

 言いかけて、ぐるぐると感情で丸めた。私が言うのはたぶんおかしい。そのかわり、そうだ。あれを聞こう。

「あの、そういえば聞きましたよ」

「んー?」

「片桐さん、私を他の人にとられたくないから、私に仕事を放り投げてたんですね」

 改めて言っても冗談にしか聞こえない。
 片桐馨さまが、そんなバカバカしいことをするはずが無い。

「はは、バレたか」

 片桐さんはくしゃりと顔を崩す。まるでいたずらがバレた時の子どものような。
< 144 / 249 >

この作品をシェア

pagetop