Toxic・Romance
手を伸ばせば壁にぶつかりそうなほどせまい部屋は、どこか非現実的な感覚があった。映画はまだ続いているけれど、ふたりの、もうどちらのものかわからないリップノイズがうるさくて、映画の音は聞こえない。
どうしようもなかった。彼の放つ引力に巻きこまれてしまうのはいつも私の方。
けれど私はこの期に及んで、どうしようもなく自分を受け身の立場でとらえようとする。自分の往生際のわるさに辟易する。されるがままのふりをして、いま、彼の背中に手をまわしているのは私だ。
誰だって、無いものを引き寄せることはできない。
優しく食まれてほどけた唇に、とても自然な動作で舌が入ってきた。先週も、何度も、何度も片桐さんとこうした。口内はあっという間に熱くとろけて、唇も舌も、私の髪を撫でる手も、口づけの角度を変えるたび皮膚をかすめる彼の肌の感触すら、触れあうすべてが気持ちよくて、焦った。
「(たべられてるみたい)」
そんな、あきらめにも似た感情が脳裏を掠めた瞬間、
長くて短いひととき。片桐さんは口づけの途中ずっと私の髪を撫で、かきあげ、指先で耳の輪郭をなぞり、あやすように耳輪を摘んだ。うっとりするような指の動きが、その先に続く行為をわたしに想像させ、欲望させる。そして、耳に吐息の湿度を感じる距離で「ごめん」とささやいた。なんに対する謝罪か、わからなかった。