Toxic・Romance
「俺ん家、すぐそこ」
おれのいえ、すぐ、そこ。
「……え、」
理解、それから、困惑。夢から覚めたような感覚。夢と現実が分からないほど子どもじゃないのに、おかしなことだ。
「タクシーでワンメーターくらい」
あ、この時間のワンメーターなら、確かにちかいかも……。
思考回路がとろけた脳内で、なんとなく、その距離をかみしめる。
けれど、それなら、片桐さんはどうしてここに残ったんだ。
「じゃあ、片桐さんだけでも帰れば良かったのでは?」
口にした途端、思いがけず冷たい言い方になってしまった。あわてて、弁明のことばを考える私を分かってか、片桐さんは私をあまやかすように、やさしく微笑んだ。
「あんたを一人にしたくなかっただけ」
「……、」
片桐さんのやさしさは毒だ。それも浸透力のたかい毒。このまま毒に浸されつづけたら、私はあっさりと腐敗していくのではないかと心配になる。じゃあ、逃げた方がいいのかと考える。
「月島さんと一緒に帰りたい。……駄目?」
だけどそんなふうにいたずらっぽく誘われてしまったら、私にはもう、ぎこちなくうなずくことしかできなかった。