Toxic・Romance
「ふふ、片桐さんのにおいする」
客のくせにひどく安心してしまったのは、きっとそう、香りのせいもある。私という尊厳はこの香りに包まれて、何度か守られてきたからだ。たった一回、ぐしゃぐしゃの泣き顔を見られたことは、私にとって、数年の付き合いと同等の信頼を与えたのだ。
「いいにおい…」
ぬくぬくの布団にくるまれば、思考回路がふやけていく。無防備だろうが、片桐さんの前なので、目をつむっていただこう。
「きみ、よく今まで男を知らずに生きてこれたよね」
片桐さんは呆れる。これも一種、ハッピーセットのおもちゃのようなもので、いらないと言わない限り必ず付随される。そのうえで、私はきちんと反論する。
「馬鹿にしてませんか?」
「感謝してる」
「性格わるいです」
私の言葉などまるで聞いてないのか、片桐さんは「風呂、明日でいーか」なんて言う。招かれた客の私とは違い、自分の自由がきく片桐さんはてきとうに着替えをすませ、ベッドに潜り込んだ。すこし沈んだマットレス。背中に片桐さんを感じたと思えば、彼は私を、まるでいつもそうしているかのように、自然な動作で抱きしめる。
広いと言っても、大人が二人寝れば狭い。急激に、ラブホテルの大きなベッドが恋しくなった。