Toxic・Romance


 けれど、そう。片桐さんは、私を自身の凹凸にかさなるように抱きしめるだけで、それ以上、踏み込んでくる兆しはない。

 深夜の静寂、肌越しにつたわる一定の鼓動。これがきっと、いまの私たちにとって一番自然で、あるべき形なのだと思う。けれど、思考が凪ぐほどに、胸がくるしくなる。

 耐えきれず、その腕の中でくるりと身体の向きを変えた。至近距離で、片桐さんの視線とぶつかる。

「えっと……しないんですか?」

 潤んだ瞳で見上げると、「うーん」と、片桐さんの喉仏がめのまえで緩慢に動いた。彼は私の前髪をゆびさきで優しく撫で、吐息のように言った。

「今日はいいかな」

 その、たった十字にも満たない言葉が、ひどく冷たく、胸がキュッとうずくのを感じた。

「……そうなんですね」

 拒絶されたわけではない。そんなこと分かっているのに、心だけが置いてけぼりにされたような感覚だった。

 彼にとって、私は「その程度」の存在なの?

 喉まで出かかった言葉を、私は一度だけ飲み込んで。でも、どうしても抑えられなくて、彼の胸板に額を預けたまま零した。
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