Toxic・Romance
「楽しかったなあ……」
もう一度独りごちる。今日一日でいったい何度思い出しただろう。ものを選ぶときの横顔だとか、やさしげに落ちる目線だとか、私にコーヒーを渡すときの指先だとか、目を瞑っても、瞑らなくても、鮮明に思い出されてしまう。
楽しかったというより、気楽だった。身体は確かに歩き疲れたけれど、心は軽くなったと思う。
「(片桐さん、なにしてるんだろ)」
もらったヘアクリップをツンと指で突く。
「(ていうか、今日だけで片桐さんのことを考えすぎでは?)」
ましてや彼が何をしていようが、私にはまったく関係の無いことだ。なのに、息をするように欲深くなる自分がおそろしくて、創作に逃げる。
頭の中に流れてくる映像を文字に変換し無心でキーボードを叩いていると、ふと、スマホが震えた。視界の端で見慣れたアイコンが見えたのと、私がスマホを手繰り寄せたのはほぼ同時だった。
メッセージアプリを開くと、子犬の写真がいた。
《可愛い》
「可愛い!」
《うちの子》
片桐さんの実家の犬だろうか、真っ白なふわふわのトイプードルだ。
それにしても、天使だ。正義だ。可愛いとは思うけれど、動物アレルギーなので見るだけで十分だ。恋も同じだ。
羨ましいけれど、憧れるだけで十分。