Toxic・Romance

「(笑ってる……)」

 不思議だ。以前は彼に揶揄われると腹立たしさを感じていた。けれど、いまはどうだろう。腹立たしさよりも、安堵の方がおおきい。いつか片桐さんが言った。

 あんたが笑っていれば、それだけで、と。

 あの言葉の解釈にはまだいたっていない。けれど、少なくとも私は、片桐さんが笑ってくれると嬉しい。

「月島さんの家ってここからだと地下鉄が近い?」

 隣から片桐さんが、おそらく別れを切り出した。

「え……」

 もしかして、今日もこれでおわり?

 一度目は偶然だと思った。二度は違和感。これで三度目。意図的だと考えるのが普通だろう。

「(……どうしよう)」

 短く悩む。けれど、私の身体はやっぱり頭よりも正直だった。

「どうしたの」

 私に服の裾を引かれていることに気づいた片桐さんが振り返った。

 離さなきゃ。離れなきゃ。……離したくない。

「……私、がっかりさせましたか」

 口から出た声は頼りなくて、喉のおくが震えた。悲しくないのに下まぶたから涙が溜まってゆくのがわかった。

「もう、私には興味ないですか?」
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