Toxic・Romance
「……は?」
片桐さんは、心底予想外だというように目を見開いた。その驚いた顔があまりにも無防備だ。
「……なんの話?」
そして、まったく理解が追いついていないらしい。
「だって、少し前まで……金曜日は、ご飯とお泊まりがセットだったじゃないですか。なのに今は、送ってくれるだけ。……私、ちゃんと更新してますよ? 片桐さんをモデルにしたあのお話、すごく好評で、心が軽くなって、おかげで仕事の評価も……っ」
仕事という盾を構えて、ふるえる声を隠そうとする。けれど、言葉を重ねれば重ねるほど、惨めさが足元から這い上がってきた。
私が求めているのは仕事の成功じゃなければ、小説への評価でもない。今のこの、拒絶されているような距離感に耐えられないだけだ。
「……ちがう。これでも一応、反省したんだよ」
私の声も頼りない声量だったけれど、片桐さんの声もまた、弱々しいものだった。
「……反省?」
しかし、片桐さんを追い詰めるものに心当たりはない。
「月島さんが俺のペースに合わせてばかりじゃん。文句も言わずに」
「それは、私が納得して……」
「そうだけど。忘れそうになるけど、月島さんは恋愛経験値がゼロじゃん」
「……悪いですか」
「悪くはないよ。ただ……」
彼は一度言葉を切り、夜の冷たい空気を深く吸い込んだ。
「……いきなり、飛び越えすぎた。あんたにとっては、例えば手を繋ぐことから始めても良かったんじゃないかと思って。段階を踏むべきだった」
視界が滲んで、彼の端正な輪郭がゆがんで見える。 この人はこの人なりに、私という人間を、その物語を壊さないように、歩幅を合わせようとしてくれていたのだ。