Toxic・Romance



 その後、本屋さんに併設されたカフェにて、私は運ばれてきたチェリータルトに一瞬目を輝かせたけれど、すぐにむっすりと頬に怒りを溜め込んだ。

「……何。まだ怒ってるの」

 片桐さんはココアのカップを置くと、可笑しそうに目を細めた。その涼やかな顔を見ていると、余計に腹が立つ。

「怒ってます。……お詫びに買い物って言いましたけど、そもそもお詫びが必要な事態にしたのは誰ですか」

「俺だね」

「自覚があるなら、あんなに……っ」

 言いかけて、周囲の目を気にして声を潜める。  朝。一度目が覚めてから、一体何時間あのシーツの中に閉じ込められていたのか。 最後、と言いながら、耳元で甘い声を出すたびに約束を反故にしたのはこの人だ。

 おかげで今の私は、歩くたびに足の付け根がふわふわして、立っているだけでも精一杯なのだ。

「あんたが可愛すぎる声で俺を呼ぶのが悪いだろ」

「人のせいにしないでください! 私、お昼ごはんにはパンケーキを食べる予定だったのに」

 私がフォークをぷいっと向けると、片桐さんは「ごめん」と口では言いながら、全く反省の色がない笑みを浮かべた。

「そのチェリー、俺にちょうだい」

「だ、だめです。これは私への、物質的な慰謝料ですから」

 独り占めするように皿を手前に引くと、彼はクスクスと肩を揺らして笑った。

ああ、もう。本当にこの人は。
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