Toxic・Romance


「まあいいや、俺の話を盗み聞きしたなら、また時間取ってくれるんだよね?」

「そうだけど……」

 言葉尻を飲み込んだ。いつも通り、分かりましたと言えない。

 私は片桐さんにとってなんですか?セフレなんですか?だったら、セフレの一人一人に優しくするんですか?突き放さないのも、こうやって、かまってくれるのはどうしてなんですか?

 私の裏側を知らない片桐さんは、やさしく微笑む。

「楽しみにしてるよ夕結ちゃん。……じゃあね」

 と。一方的にさよならを告げる片桐さんは、突然立ち止まった。目の前で一体、一人でなんの遊びをしてるんだ。

「……なに?」

 怪訝な表情をしているのは私だけではない。片桐さんもまた、眉を顰めて私を見下ろしていた。

「え……?」

 視線をさげると、なぜか私の手は片桐さんのスーツの裾をぎゅっと握りしめていた。ほぼ無意識のうちに。

「あ……ご、ごめんなさい……!」

 あわてて手を引っ込めた。恥ずかしくて顔に尋常じゃないほどの熱を感じていると、片桐さんの手は隠した私の手をするりと絡め取り、すこし身をかがめて私を覗き込む。

「……どうしたの」

 むねがぎゅっと締め付けられて、涙が込み上げた。
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