Toxic・Romance
社食の入り口を抜けると、そこにはいつもの騒がしい日常が広がっていた。けれど、私のセンサーは片桐さんの姿だけを正確に捉えてしまう。
「(いた……!!)」
片桐さんだ。トレーに乗ったカレーには目もくれず、スマホを片手に座っている。その姿は、周囲の喧騒から切りはなされたように静謐だ。
私もカレーを選び、それから片桐さんの元へ向かう。あ、向かいが良かったかな……?と一瞬まよったけれど、ここまできてUターンすることはできないので「片桐さん」と声をかけると、私を確認した片桐さんは「おつかれ」と言いながら、隣の椅子を引いた。どうやらここで良かったらしい。
「カレー?」
「はい。片桐さんのを見て、カレーにしちゃいました。片桐さんは甘口ですか?」
「……中辛」
そう言って片桐さんは目をそらした。弊社の社食カレーは辛さとトッピングが選べる。私のカレーは中辛だけど、スライスされたゆで卵がトッピングされた片桐さんのカレーはあきらかに色が優しい。
「(絶対甘口だ……)」
けれど、言わないでおく。
「私のカレー、味見しますか?」
かわりにちょっと意地悪をすれば「いらない」と言われたので、楽しくなった。