Toxic・Romance
タバコの香りが染み付いた部屋、床に落ちた微かな灰。名称や存在はもちろん知っていたけれど、好んで入ろうとも、まさか私が利用することなど一生ないと思っていた喫煙所。

それなのに、今の私はこの場所を積極的に利用している。過去の自分がタイムマシーンでやってきたら、罵詈雑言を浴びせるに違いない。

過去とは言わず、私の家族が今の私の行動を、その原理を知れば卒倒してしまう恐れがある。そちらの方がずっと現実的でおそろしい。

だからこれは、最初からトップシークレット。

とはいえ勤務先に私の知り合いはいない。取引先も安全圏。最初から最後まで有名人と旅先がおなじだった、そんな奇跡が発生しない限り私の秘密が漏洩することはないだろう。

セルフで安心させては、ポケットからライターを取り出し、新品の煙草と重ねてテーブルに置いた。

これが報酬の一部になったのは、いったい、いつだっただろう。

『吸わないなら、ちょうだい』

いつからか、私が好んで買う煙草は彼と同じ銘柄になって、私が買うタイミングもまた、この場所に足を運ぶ頻度と同じになった。
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