Toxic・Romance
さて、もしもこれが彼に対する“報酬”に該当するのならば、私は十分支払っていることになるのではないだろうか。
──「誰か携帯鳴ってね?」
同じ空間内で弾んでいた談笑の合間に、疑問が届いた。喫煙所には私のほかに、男性社員たちが既にいて、そのうちの一人が、くいっと顎を向けた。
「どうせ、お前だろ」
もう一人が尋ねたのは、何食わぬ顔でスマホを触り、我関せずを貫くそのひとだった。確かに彼からバイブ音が聞こえてくるような気がしたけれど、彼は通話する様子もなく、ましてや気にする素振りなど見せず、片手でスマホを操作するだけだった。
「女?」と、いち早くスマホの音に気づいた男性社員がにやりとほくそ笑みながら聞けば、その人は「んー……」と、曖昧な返事をした。
「女だな」
しかしその返事だけで、二人には通じるものがあるらしい。
「無視か」
「別に今はいいかな」
「彼女の電話を無視して許されるのかよ」
「仕事って言えば大体言及しないっしょ」
周囲は「えぐ」と言いつつ苦笑する。男は、形の良い唇の片端を、わずかに持ち上げた。その表情には、悪気はないが、深い関心もない。「好きだけど、特別じゃない」という彼の恋愛観が透けて見える。