Toxic・Romance
 
「本当に、誰とも付き合ったことないんだね。あんたは」

「ないですよ。……悪いですか?」

 少しだけ拗ねた声を出すと、ドライヤーの音が止まった。ふいに背後から回された腕が、私の肩を優しく抱き寄せる。

「全然。むしろ、大事にしなきゃね」

 冗談みたいな調子なのに、鏡越しに重なった視線だけが、残酷なほどに真剣だ。

「(……っ!)」

 逃げ場だったはずの私の心臓は、いとも簡単に捕らわれてしまう。

 片桐さんが、あますぎる。

 この大きな手の温もりも、お砂糖みたいな声も、私を特別扱いするその眼差しも、ぜんぶがあまい。


‪𓂃 𓈒𓏸
 
 午前中だというのに、ゆるみっぱなしの頬がどうしても元に戻らない。口元が勝手に弧をえがく自覚はあるけれど、一度溢れだした幸福感は制御不能だった。

「月島、またいいことあったでしょ。分かりやすすぎ」

 隣から忍び寄った声に、びくっと肩が跳ねる。隣を見ると、夜永さんが半ば呆れたような、けれどどこか楽しげな顔でこちらを検分していた。
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