Toxic・Romance
先輩と共に会議室の扉に手をかけた。開かれた扉の先。すでに着席していた一団が、冷ややかなほど整然とした空気の中で私を待ち構えていた。
その中心にいる女性が、滑るようにゆっくりと立ち上がる。
「お疲れさまです。翠峰社の雪見です」
一連の動作で、先輩に続いて差し出された名刺には、凛とした字体で『雪見 遥』と記されていた。柔らかいのに凛とした微笑み。彼女の声は静かで、部屋の温度を彼女好みの快適な数値に整えていくような説得力がある。
「青藍グループ、月島です。本日はよろしくお願いいたします」
名刺を受け取る指先が、わずかに冷えた。なぜだろう。この人を前にすると、自分の存在が背景に溶け込み、輪郭がぼやけていくような感覚に陥る。
プレゼンは滞りなく進んだ。雪見という女性はほとんど口を挟まないけれど、ここぞという瞬間に放たれる短い補足が、議論の舵を一瞬で奪い去っていた。
「(すごい……)」
純粋な感銘だった。休憩時間になると、資料をまとめる私の背後に気配が降りる。
「お疲れ様です。青藍の方、ですよね?」
顔を上げると、雪見さんが立っていた。近くで見ると、会議中よりもずっと穏やかな、まるで旧知の仲に接するような表情を浮かべている。