Toxic・Romance


「あんたのことになると、余計に心が狭くなって仕方ないよ」

 その声がやけに近くて、胸の奥がじんわり熱くなる。

 価値観を擦り合わせることって大変だ。けれど、片桐さんは私の価値観を好きだと言い、私は彼の不器用さを愛しいと思う。片方は言い、片方は言わないだけで、たぶん、わたしたちの本質は同じなのだ。形は違えど、同じ重力に惹かれあっている。

「こないだ話したこと覚えてる?」

「……こないだ?」

「あんたが俺の帰宅を引き伸ばす為に努力しているって話」

「改めて口にしたらすごく恥ずかしいですね」

「俺もね、」

 片桐さんは、少しだけ困ったみたいに笑う。

「毎回、終電と戦ってる。帰さなきゃって俺と、帰したくないって俺が」

「配慮して下さっていたんですね」

「……配慮っていうか帰したくないだけ」

 あまりに静かな独白。心臓が一拍遅れて跳ねた。彼は私の瞳をじっと見つめ、逃げ道を塞ぐように距離を詰める。

「ちなみに、俺たちの悩みって一回で解決できる方法があるんだよ」

「……?」

「今じゃなくていい、将来的……そうだな、そんなに遠くない未来」

 彼がポケットから取り出したのは、光を鈍く反射する、銀色の小さな鍵だった。

「一緒に住もうよ」
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