Toxic・Romance
綺麗な人が浮かべる無邪気な笑顔の破壊力はすさまじい。
嫌いな人。苦手な人。積極的に関わりたくないし、出来れば距離を保ちたい。なのに、きゅんっと胸が高鳴るのはこの人の顔がとてつもなく好みだからだろうか。
「何その顔」
気が緩んだ私は、調子に乗った。
「片桐さんのハードスケジュールに応えて疲れ切った顔です!」
少しのわがままも、今なら許される気がしたのだ。
「仕事でしょ。あれくらいで泣き言言うなよ」
「仕事の一言で綺麗事に済ませるのは良くないと思います」
「あそ。今日は遠慮なく俺に付き合わせるけど、異存は?」
「うっ……」
弱みを握られている私が反論できるはずもない。なにも言い返せず言い淀む私を見て、片桐さんは楽しそう肩を揺らし、それから「あっち」と、親指を向けるので、隣に並んで歩く。
「飯、どうする?」
「お腹空いてないので、いらないです」
「じゃあホテルに直行か」
「い、かないです!」
「ホテル、嫌?」
「嫌です! 卑猥です!」
「じゃあ俺ん家にする?」
「もっと嫌です!」
「だったら月島さんの家か。一人暮らしなの?」
「一人暮らしですけど、私の家は絶対に駄目です!」
必死で絞り出した反論は、語彙力が家出をした中学生のようだった。顔から火が出るほど恥ずかしい。