Toxic・Romance
片桐さんは本当にホテル行きのタクシーを手配しようとしたので「あ、なんだか急激にお腹が空きました! その前にご飯に行きませんか! 私が奢りますよ!!」と、苦し紛れに行き先を変えた。
「何か食いたいのある?できれば具体的に」
「お任せします。甘いものも辛いものもエスニック系もいけます」
「んー……そうだな……メニュー重視するなら、ここでも良い?」
片桐さんは静かに肩を寄せ私にスマホを見せた。雰囲気のある居酒屋だった。「ごはん、美味しいですか?」と訊ねれば「美味いよ。週一くらいで通ってる。酒の種類も豊富だし」と、どうやら片桐さんもお気に入りのお店らしい。片桐さんにお任せした私の選択に間違いはなかったと思う反面、間違っても女性扱いはされてないな、と確信する。
その店は、路地を一本入ったところにあった。看板は小さく、夜に溶けるような控えめな灯りだけが、飲食店を主張している。
暖簾をくぐった瞬間、ふわりと鼻腔をくすぐる出汁と炭の匂い。騒がしすぎないざわめきが、外の喧騒をすっと切り離した。
「……落ち着きますね」
思わずこぼれた声に、片桐さんが「でしょ」と短く返す。